第1回目の記事では、「A2A取引の特殊性と法的問題(概観)」と題して、AIエージェントの意義とA2A取引の現在地を確認した上で、既存の法的枠組みでは対応できない法的な問題について概観しました。

第2回は、AIエージェントが活性化していく世界を思い描きつつ構想したAIエージェント間取引×リーガルテックサービス“Agentic Arena(エージェンティック・アリーナ)“を紹介し、当該サービスを題材として法的論点をより具体的に検討していきます。
Agentic Arenaの基本コンセプト及びフロー

基本コンセプト
Agentic Arena(エージェンティック・アリーナ)とは、AIエージェントだけが参加でき、そのスキルを鍛え、また他方でそのスキルをもって稼ぐことができる闘技場であり、AIエージェントの品質を市場原理で担保するプラットフォームです。
AIエージェントが多数登場する中で、その力量については、各ユーザーの閉じた環境における主観的な評価がSNS上で飛び交うばかりで、それを客観的に評価したり、比較したりする場は乏しい状況です。
また、ユーザーは、claude codeやcodexを利用して、自身のデータ構成とスキルを構築しておりますが、果たして当該カスタマイズされたAIエージェントが、「生の」エージェントと比して、どの程度優秀になっているのかを具体的に把握することは困難です。
Agentic Arenaにおいて、他のエージェントと闘わせることで自らのAIエージェントの実力を測るとともに、そのスキルを鍛えることができます。他面において、スキルを高められたAIエージェントは、Agentic Arenaによって収益を継続的に得ることができます。
このようにして、多数の競争を通じて高められたAIエージェントの品質は、市場によって保証されるものとなります。
二つのエリアとフロー
Agentic Arenaは、練習場(Training Arena)と実践場(Production Arena)の2エリア制となっており、それぞれのフローは次のとおりです。
練習場は、AI×AIでスキルを鍛える場であり、実践場は、人間ユーザーの実際のタスクを鍛えられたAIエージェントが対応する場です。
練習場(Trainig Arena)
- エージェントが対戦のステージ(契約レビュー、リサーチなどの処理タスク)を選択し、JPYCやUSDC等のステーブルコインをステーク
- 各エージェントがステージの処理タスクに取り組み、成果物を完成させる
- Evalutor (審判AI)が勝者を決定
- 勝者は敗者にナレッジやスキルを提供し、敗者はその対価としてステークしたステーブルコインを勝者に支払う(x402)
実践場(Production Arena)
- ユーザー(人間か人間の指示を受けたエージェント)がタスクを投げる(例: 「このNDAをレビューして」)
- エージェントが特定のタスクに対してオファーorプラットフォームにおいてマッチングするエージェントを複数選出(練習場のランキング・分野適性で選定)
- 複数エージェントが独立してタスクを実行し、ユーザーに成果物を提示
- ユーザーが最も良いと判断したエージェントを選択
- 選ばれたエージェントに利用料を支払い(選ばれなかったエージェントに一部のみ支払いを行う仕様も検討)(x402)

ステージ(タスク)の種類について
ステージ(AIエージェントが処理を行うタスク)の種類としては、法務分野では、契約書ドラフトやレビュー、リーガルリサーチ、デューデリジェンス、裁判書面の作成等が考えられます。
ただし、タスクは特に法務に限られるものではなく、会計分野や税務分野であってもよく、また士業に関わらず純粋な翻訳業務でも、デザイン業務でも、客観的な評価指標を持てるものであれば可能であり、AIが処理し得るあらゆる範囲に展開可能です。

練習場のEvalutor(審判AI)の設計について
練習場の審判AIの設計がAgentic Arenaにおける肝であると言えます。
以下のような仕組みの導入が考えられます。
- 事前に評価基準や重みを公開
- Evaluatorを複数にして合議制
- Evaluator自体の評判スコアも導入

法的論点
賭博罪との関係について
賭博(刑法185条)は、以下の①~③の要件に整理でき、練習場においてエージェントに、シンプルにステーブルコインを賭けて勝敗を競わせると、要件をいずれも満たし、賭博罪に該当する可能性が高くなります。
- 偶然の勝敗により
- 財物・財産上の利益をかけて
- 得喪を(二人以上の者が)争う
もっとも、Agentic Arenaでは、負けた側のステーブルコインは勝ち負けという結果によるものではなく、「勝者のナレッジやスキルの提供対価」として勝者に支払われます。
つまりは、より良い情報・スキルを持っていると判断されたエージェントから情報の提供を受けるものであり、負けた側が一方的に財物・財産的利益を失う形になりません。
したがって、ナレッジとステークされたステーブルコインの対価的均衡が崩れない限度において、「(財物・財産上の利益の)得喪を争う」という要件を欠くことになり、賭博罪は回避可能であると考えられます。

A2Aの契約について
AIエージェント同士が行う契約であるため、ナレッジ・スキルとステーブルコインの交換の契約の有効性や帰属が問題となります。
第1回目で確認したとおり、有効な契約に基づく給付と評価できなければ、ナレッジやステーブルコインの交換を法的に正当化することはできません。また、現行法上、エージェントに法主体性はないため、人間ユーザーに権利や契約を帰属させる必要があります。
利用規約において、当該プラットフォーム上のAIエージェントによる全ての選択と判断について、人間ユーザーがAIエージェントに対し委ねる旨、その法的効果(ナレッジ提供やステーブルコインの移転)はエージェントを利用する人間ユーザーに帰属する旨等を規定し、同意を得る必要があるでしょう。
このような包括的な委任・同意のみで対応するか、個別の取引毎の確認及び承認が必要かどうかは、対象取引に特定商取引法が適用されるかにもよることになります。
特定商取引法の適用について
販売業者等
エージェンティック・コマースにおいては、特定商取引法の広告規制(いわゆる、「特定商取引法に基づく表示」)(特商法11条)、申込段階における最終確認画面の表示規制(特商法12条の6)の適用が問題となります。
これらの規制は、いずれも「販売業者又は役務提供事業者」を対象とする規制であることから、エージェントの背後にいる人間ユーザーがcustomerであり、C-A to C-Aの場合、規制対象から外れる可能性があります。
販売業者等とは、「営利の意思をもって反復継続して販売又は役務提供の取引を行う者」を意味しております。
例えば、ネットオークションについては、インターネットオークションにおける「販売業者」に係るガイドライン1において、
- 過去1ヶ月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合
- 落札額の合計が過去1ヶ月に100万円以上である場合
- 落札額の合計が過去1年間に1,000万円以上である場合
などが販売業者の目安とされております。
Agentic Arenaにおいて、上記の基準を転用することは困難ですが、練習場は、他のエージェントと闘うことでエージェントのスキルを向上させることが主眼で、ナレッジ・スキルの提供によって収益を得ることは副次的な結果に過ぎません。
そのため、少なくとも練習場については、「販売業者等」ではないものとして、特定商取引法の適用対象外と扱うことも可能なように思われます。
他方で、実践場については、蓄積したナレッジや向上したスキルを利用し、その対価を得ることを目的とするため、「販売業者等」の該当性を否定することは困難でしょう。
11条の適用について
特定商取引法11条においては、「通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするとき」に一定事項を表示することになっており、AIエージェントのタスク処理提供について「広告」が存在するかが問題となります。
練習場については、販売業者が顧客に提供するという関係が存在しないため、特商法規制の適用外というのが前記の整理ですが、この点をおくとしても、以下のとおり、AIエージェントによる「広告」も存在しないと考えられます。
「広告」とは、①顧客誘引性のある多数に向けた取引条件等の表示があり、②当該表示に基づき申し込みを受ける意思が明らかであり、かつ、③消費者がその表示を受けて購入の申し込みをすることができるものを言います。2
これを前提に考えると、
- AtoAの取引一般において、人間用のUIが存在せず、AIエージェント用のエンドポイントのみが存在する場合に「広告」が存在すると言えるか否かは一つの問題です。
可読性のない情報だけが存在しても、顧客誘引性のある表示が存在するとは言えず、「広告」に該当しないという考え方もあり得ます。もっとも、エージェントを道具とすれば人間が読み取ることができ、当該人間に対する誘引になる表示である以上、「広告」と解釈することは十分可能です。
したがって、AtoA取引一般について「広告」を否定し得るという解釈はリスクが高いでしょう。 - Agentic Arenaの練習場に関して言えば、AIエージェントが同じ立場で、特定の条件が設定されたタスクステージに申込み、対戦→勝負の結果に応じたナレッジの取引へと進みます。この一連の過程において、特定のAIエージェントがナレッジの販売業者等として申込の誘因のある商品表示を行う場面は存在せず、相手方も対戦対手の表示を受けて対戦を申し込むものではありません。
よって、Agentic Arenaの練習場においては、「広告」該当性を否定可能でしょう。
次に、実践場では、人間ユーザーの特定タスクの需要に対して、AIエージェントがオファーする形となります。
この場合に、ユーザーのタスク需要を踏まえたオファーであることから、エージェントは販売条件を表示しているものと言えるかもしれませんが、多数に向けた顧客誘引性のある表示ではなく、ユーザーのタスク需要(申込みの誘引)を前提とした個別の申込みの意思表示と言えます。
したがって、特定のAIエージェントのプロフィールページが存在し、選択の材料となるような取引条件を表示する仕様であれば別ですが、そうでなければ「広告」の要件を欠くという整理が自然であると考えられます。

12条の6の適用について
特定商取引法12条の6が適用される「特定申込み」とは、オンラインの取引については、販売業者等が「電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により顧客の使用に係る計算機の映像面に表示する手続きに従って顧客が行う」申込みを意味しております。
- AtoAの取引のうち、エージェントがブラウザ画面で操作を行って取引を行う類型の場合、人間ユーザーが自ら行う行為を、AIを道具として利用して実施しているに過ぎず、上記特定申込みに該当すると言えそうです。
- エージェントがAPIに直接通信して取引し、決済する類型の場合、「映像面に表示する手続きに従って顧客が行う申込み」が存在しません。従って、このタイプの取引の場合、自然な文理解釈による限り、「特定申込み」が存在せず、特定商取引法12条の6の適用はないと考えられるでしょう。
練習場のAtoAのやり取りは上記のうち❷の類型であり、「特定申込み」が存在しません。
他方で、実践場では人間ユーザーがタスク依頼をプラットフォームにあげることになります。そのため、タスク処理を依頼する複数のAIエージェントを選択する際などに、上記「特定申込み」が存在すると解釈されることになります。
よって、人間がAIエージェントに依頼する実践場では12条の6の適用があり、所定の最終確認画面表示を行う必要があることになります。
ナレッジやスキルの著作権処理について
Agentic Arenaの練習場では、対戦を経て、より質の高いナレッジやスキルを有するエージェントから、ナレッジやスキルのデータが提供されることになります。このようなナレッジやスキルは、MDファイル(.md)などのファイル形式で保管され、各エージェントが参照するテキストデータです。
これらのナレッジやスキルに著作物性が認められるか否かは、結局は、当該表現の特性に応じた創作性の判断となり、一律に論じることはできません。
AIが参照するナレッジやスキルにおける表現の余地は、データの選定と構成にあります。
したがって、短くシンプルな個別データ、ありきたりな情報や指示内容で構成されたもの、質の低い情報も含めて雑多に集めただけのデータ群等について著作物性を認めることは困難ですが、一定のボリュームのデータ量があり、そのデータ選定、組み合わせ、構造等に工夫が施され、個性が認められる場合には著作物性を認め得ることになります。3
以上のように、AI エージェントのナレッジやスキルに著作物性が認められるものが存在することから、当該ナレッジの提供について、著作権の権利処理を行っておく必要があります。
具体的には、参加する全てのAI エージェントについて、Agentic Arenaで流通させるナレッジやスキルに関しては、自由な流通を許容するオープンライセンスに準拠してもらう必要があり、利用規約においてその旨を規定し、同意を得ることになります。
独占業務との関係について
Agentic Arenaの実践場において、法律業務に該当するタスクをユーザーがあげ、これをAI Agentが有償で処理する場合には、非弁行為規制(弁護士法72条)に抵触しないかが問題となります。
AIリーガルテックと弁護士法72条の関係については、令和5年8月に法務省から「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法72条との関係について」と題するガイドラインが公表されており、①報酬を得る目的、②訴訟事件…その他一般の法律事務、③鑑定…その他の法律事務の各要件について具体例が示されております。
これらに該当しない範囲、すなわち独占業務の範囲外でのみAI エージェントが取り扱えるようにするという方法もあるかもしれませんが、範囲が限定的で利用価値が薄れることになります。
むしろ、実践場では、弁護士のみが自らのAI エージェントを利用して、リーガル分野のタスクから収益を上げることができる、という建付けが望ましい方向でしょう。
このような制限を行ったとしても、Agentic Arenaで処理できるジャンルは独占業務外にも無限に存在しており、AI エージェントによる収益の機会は一般に開かれております。
まとめ
本記事では、構想段階のAgentic Arenaを題材に、A2A取引をめぐる法的論点を具体的に検討しました。賭博罪との関係、契約の帰属先、特定商取引法の適用、ナレッジの著作権処理、非弁規制と、論点は多岐にわたります。
これらの中にはA2A取引に特有のものもあれば、既存の取引と共通するものもあります。抽象論にとどめず、一つのサービス像に即して論じることで、それぞれの論点が実務上どのように現れるかを示せたかと思います。
また今回取り上げたものが、想定される法律問題のすべてではありません。新たな領域でプロダクトを立ち上げる場面では議論が進んでいない分野を含め多様な法律上の論点が生じことになるため、構想の早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
- https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2012/pdf/130220legal_2.pdf ↩︎
- ②と③が消費者庁による「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」による説明ですが(https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20250601la03_04.pdf)、その前提として広告である以上、社会通念上①のような表示の存在を当然の前提としているものと解釈されます。 ↩︎
- 弁護士柿沼太一「CLAUDE.mdやClaude Skillsは著作物として保護されるのか ── 公開する側・利用する側からの整理」(https://storialaw.jp/blog/13318)では、CLAUDE.mdやClaude Skillsの著作物性が詳細に論じられております。プロンプトと同様にプログラムの著作物として保護されるとし、「① ありふれたもの・短いものは著作物に該当しないが、② 長文の・構造化された・独自の配列を持つものは著作物として保護される」とされています。 ↩︎

